新しい水虫 格闘技競技者に多いトンズランス感染症

 トリコフィトン・トンズランス(Trichophyton tonsurans)は人間の皮膚や毛が好きな白癬菌(皮膚糸状菌)の一種です。日本で最近までこの菌が分離されることはまれでしたが、2001年頃からこの菌による白癬の集団感染が柔道部員やレスリング部員などの格闘技競技者にみられるようになり、徐々に全国に拡大しました。さらに最近では格闘技選手の家族と小学生などのより低年齢の格闘技競技者にまで拡大していると考えられています。
 この菌による症状には体部白癬(たむし)と頭部白癬(しらくも)の2つがあります。体部白癬は格闘技競技者同士が接触することの多い顔、首、上半身に生じます。1円玉ぐらいの大きさの赤く、表面にふけがついたようにカサカサしているのが特徴です。頭部白癬は頭の毛の中に菌が入り込んだ状態です。軽い場合はふけが出る程度ですが、ひどくなると毛が抜け、膿んでくることもあります。
 この菌は感染力が強いので、友人や家族にうつりやすく、また一度感染すると治りにくいので注意が必要です。また、他の水虫と同様に夏に患者が増える傾向にあります。
 治療は足白癬(水虫)と同じ抗真菌剤を用います。ただしぬり薬だけでは効果が少ないので、飲み薬も使用します。特に毛の中まで菌が及んでいる時は飲み薬を6週間以上続ける必要があります。

なお、本症に関して相談がある場合は、メールを下されば可能な限りお返事をさせて頂きます。

以下によくある質問をまとめました。

質問1:なぜ最近になり全国に拡大したのですか?
解答1:菌の遺伝子解析の結果からは現在流行している菌は昔から日本にあった菌ではなく、海外で流行していた菌が人にくっついて輸入されたものと断定されています。したがって、近年スポーツの国際交流が盛んになったからではないかと考えられていますが、はっきりしたことはわかっていません。一度国内に菌が入ってくると、全国大会に出場する強豪校から、徐々に県内の中堅校などに拡大していきます。なお格闘技競技者は相手の皮膚と直に接触することが多いことに加え、練習や試合により皮膚に小外傷が多く皮膚のバリアーが損傷しているため感染しやすくなると考えられています。


質問2:どうしてこの菌は治りにくいのですか?
解答2:以下のような理由が考えられています。
1)菌が感染しても、痒みや痛みなどの症状があまり出ないので、感染に気付かず放置されることが多い、
2)皮膚だけではなく、頭毛や体毛の中まで侵入することが多いので、飲み薬による治療が6週間以上必要だが、根気強く服薬することが難しい場合がある。
3)集団感染が多く、保菌者を含めて同時に治療することが難しい場合がある。


質問3:保菌者とはどのような人のことを指しますか?
解答3:皮膚科医が診察しても肉眼的に症状はないが、検査をすると菌を持っている人のことです。保菌者は自分では痛くも痒くもありませんが、他人に菌をうつす能力があるので、だれが保菌者なのかきちんと検査を行い、保菌者と症状のある人を同時に治療することが感染防止には必要です。
保菌者かどうかは、頭を滅菌した綿棒やブラシで強く20回程こすり、それを2週間培養することで判定します。当院では綿棒を用いた方法で検査を行っていますが、集団全員を検査する場合は金沢医科大学皮膚科に依頼しています(1人1,000円程必要)。


質問4:団体内で感染を防ぐためにできることはありませんか?
解答4:以下のことがあります。
1) 競技で使うウエアーの洗濯。洗いやすいアンダーウエアーを着て練習する。
2) 練習後のシャワー浴。なるべく早く石けんで洗いましょう。
3) 部員間でのタオルや帽子の共用禁止
4) キズテープは極力控える。テープの中で菌が繁殖する場合があるので。
5) 皮疹の早期発見に努める
6) 皮疹のあるものは競技を休ませる。
7) 市販の抗真菌剤入りシャンプーや液体石けんの使用


質問5:家族にどのような症状があれば感染を疑いますか?
解答5:家族の中に格闘技競技者がいない場合はこの菌による感染の心配はほとんどありません。格闘技競技者がいる場合で、頭のフケが増えた、脱毛がみられる、体に赤いかさかさしたものがみられる場合は、当院を受診して下さい。その際、必ず格闘技を行っているものが家族にいる旨を医師に伝えて下さい。



質問6:現在どのくらいの人が感染していると考えられますか?
解答6:正確な数字はわかりません。全国高校総体に出場した選手の約2割がこの菌を有していることが調べられています。



最後に、決して格闘技が良くないスポーツと言っているわけではありません。治療と予防をしっかりやれば本症は特に怖い病気でもありません。楽しく格闘技を続けられるように、正しい知識を身につけて頂きたいと考えています。